広島地方裁判所 平成4年(行ウ)11号 判決
広島県安芸郡倉橋町三七八五番地
原告
中野船舶有限会社
右代表者代表取締役
須賀衛
右訴訟代理人弁護士
恵木尚
同
下中奈美
同
田上剛
広島県呉市中央二丁目一-二一
被告
呉税務署長 北浦修敏
右指定代理人
森岡孝介
同
大北貴
同
伊奈垣光宏
同
戸田哲弘
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対し、平成二年一二月二八日付けでなした昭和六三年三月一日から平成元年二月二八日までの事業年度分法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、肩書地において海運業を営む有限会社である。
2 原告は、忠海税務署長に対して、昭和三八年四月三〇日、法人税青色申告承認の申請をして、その承認を得、昭和五二年一〇月七日に本店を呉税務署管内に移し、同月二一日にその旨の異動届を同税務署長に提出した。
3 原告は、呉税務署長に対して、平成元年五月一日、昭和六三年三月一日から平成元年二月二八日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)分の法人税につき、所得金額を〇円、納付すべき税額を〇円、欠損金の当期控除額を四一一万六六六六円、翌期に繰り越す欠損金を七七〇万二四三四円として、青色申告書により確定申告した。
原告は、本件事業年度において、平成元年一月三〇日、株式会社上島造船所(以下「上島造船所」という。)から第五光栄丸(以下「本件船舶」という。)を一億円で買い受け(以下「本件売買」という。)、同年二月一日、本件船舶を上島造船所に裸傭船として貸し付けて事業の用に供したが、右船舶に付着する建造引当権(以下「本件建造引当権」という。)九四五〇万円が任意償却の方法により損金計上されるので、課税所得がないものである。
4 ところが、呉税務署長は、平成二年一二月二八日付けで、所得金額を八六〇一万八二四七円、納付すべき税額を三四九〇万一七〇〇円、欠損金の当期控除額を一一八一万九一〇〇円、翌期へ繰り越す欠損金を〇円と更正(以下「本件更正処分」という。)し、かつ、一二二一万五〇〇〇円の重加算税を賦課する旨決定(以下「本件賦課決定処分」という。)して、同日に原告に通知した。
5 原告は、右各処分を不服として、平成三年一月九日、呉税務署に対して、異議申立てをしたところ、同署長は、同年四月五日付けで、右異議申立てを棄却した。
6 さらに、原告は、右決定を不服として、同年五月七日、呉税務署長を経由して国税不服審判所長に対して審査請求をしたところ、同所長は、平成四年九月二五日付けで右審査請求を棄却する旨の裁決をした。
7 しかし、本件更正処分は、原告が本件船舶に付着する建造引当権九四五〇万円を当該事業年度において減価償却のため全額損金計上すると原告の所得金額は〇円となるにもかかわらず、この損金計上を認めず、原告の所得金額を八六〇一万八二四七円と過大に認定したものであって違法であり、したがって、これを前提とした本件賦課決定処分もまた違法である。
8 よって、原告は、被告に対し、本件更正処分及び本件賦課決定処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1及び2の事実は認める。
2 同3の事実のうち、原告が呉税務署長に対して主張のとおりの確定申告をしたことは認め、その余りは否認する。
3 同4ないし6の事実はいずれも認める。
4 同7の主張は争う。
三 被告の主張
1 本件建造引当権を損金に計上できないことについて
(一) 本件建造引当権は、法人税法施行令一三条八号リに掲げる営業権に該当するところ、同条が事業の用に供していないもの及び時の経過によりその価値の減少しないものを減価償却資産から除くと規定しているところからすれば、建造引当権の減価償却の開始時期は、建造引当権が付着している船舶を実際に事業の用に供した時からと解される。
(二) しかし、原告は本件事業年度において本件船舶を事業の用に供したことはない。すなわち、原告は、平成元年一月三〇日付けで、上島造船所との間で本件船舶を一億円で買い受ける旨の売買契約を締結し、同年二月一日付けで、上島造船所と本件船舶の引渡しの日から向こう一年間、乗務員なしの裸船を月額一〇〇万円の傭船料で貸し付ける旨の契約を締結したが、登記簿上の本件船舶の前所有者である本村悟(以下「本村」という。)が、平成元年一月三〇日、曽我八千万(以下「曽我」という。)に対し、本村が新しい船を受け取るまでの間は本件船舶を自ら使用することを条件として、本件船舶を売り渡す旨の契約を締結し、本件船舶を同年二月二六日まで、兵機海運株式会社(以下「兵機海運」という。)の仕事で、水島港へ鋼材を運搬するために使用し、同年三月二日又は三日になって本件船舶を曽我に引き渡した。したがって、原告が、本件事業年度において本件船舶を事業の用に供することは不可能であり、本件傭船契約は実態のないものである。
2 重加算税の賦課決定について
右のとおり、原告は、本件船舶を本件事業年度中に事業の用に供した事実がないにもかかわらず、あたかも事業の用に供したように事実を仮装して過少申告した。したがって、右行為は、国税通則法六八条〔重加算税〕一項に該当する。
四 被告の主張に対する原告の反論
本件船舶は、平成元年一月三〇日本村から占有改定によって曽我に引き渡され、本村が使用中に、曽我から指図による占有移転の方法によって上島造船所に引き渡され、更に上島造船所から指図による占有移転の方法によって同年二月三日原告に引き渡されたものである。そしてその各引渡時に、それぞれ、本村は曽我と月額一〇〇万円で傭船契約を締結し、曽我は上島造船所と月額一〇〇万円で傭船契約を締結し、上島造船所は原告と月額一〇〇万円で傭船契約を締結したものである。かくして、原告は右傭船契約にしたがい、傭船料を上島造船所から受領しているのであるから、原告が本件船舶を本件事業年度中に事業の用に供したことは事実である。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1、2の事実、同3のうち原告が呉税務署長に対して原告主張の確定申告した事実及び同4ないし6の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の違法事由について判断する。
1 本件建造引当権は、法人税法施行令一三条八号リに掲げる営業権に該当するところ、同条が、事業の用に供していないもの及び時の経過によりその価値の減少しないものを減価償却資産から除くと規定しているので、本件建造引当権が付着している本件船舶を原告が実際に事業の用に供して初めて減価償却が可能となる。
2 そこで進んで、原告が本件事業年度中に本件船舶を原告の事業の用に供したかについて検討する。
成立に争いのない甲第三号証、乙第七ないし第一〇号証、万徳正一作成部分について成立に争いがなく、曽我作成部分について証人万徳正一の証言により真正に成立したものと認められる甲第四号証、万徳正一作成部分について成立に争いがなく、原告作成部分について証人須賀明治の証言により真正に成立したものと認められる甲第五号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一、第五号証及び証人万徳正一(ただし、後記信用しない部分を除く。)、同須賀明治の各証言によると、本件船舶は、昭和四三年四月に製造された船舶であって、昭和五四年ころから本村が所有していたところ、造船後二〇年以上経年したので別船を購入するために買い換えようと考え、平成元年一月三〇日曽我との間で同人に対し本件船舶を売り渡す旨の売買契約を締結したこと、同契約において本件船舶の引渡期日は同年二月三日と定められたが、右売買はその実質は殆ど造船引当権の売買であったことや、本村が本件船舶を当時同人の事業に実際に使用していたこともあり、暫くの間は同人が本件船舶を使用し、本件船舶の引渡しが右契約の日より相当遅れることは当然なこととして右売買契約の際曽我もこれを了解していたこと、そして、本村は本件船舶を自己の事業に引き続き使用し、同年三月二、三日ころ本件船舶を曽我に引き渡したこと、右売買契約後の右使用について曽我が本村に使用料の請求をしたことはなく、本村もこれを曽我に支払っていないこと、曽我は右売買契約を締結した同年一月三〇日引渡期日を同年二月三日と定めて本件船舶を上島造船所に売り渡す旨の売買契約を締結したこと、曽我は同年三月二、三日ころ本村から本件船舶の引渡しを受けると同時に本件船舶を上島造船所に引き渡したが、その引渡しが遅れたことについて、そのころ、曽我が上島造船所からその間の本件船舶の使用料を請求されることはなく、今日まで曽我は上島造船所に右使用料を支払っていないこと、上島造船所は同年一月一六日長坂汽船株式会社との間で引渡期日を同年二月二八日から同年三月五日までと定めて、本件船舶を同会社に売り渡す旨の売買契約を締結していたが、同年一月三〇日、原告との間で、引渡期日を同年二月三日と定めて、本件船舶を原告に売り渡す旨の売買契約を締結し、同年二月一日、引渡期日を同年二月二日から同月二八日まで、傭船期間を引渡しの日から一年間、傭船料を月額一〇〇万円と定めて、原告から本件船舶を裸傭船する旨の契約を締結したこと、しかし、同年三月二八日原告から本件船舶を買い受ける旨の売買契約を締結し、同日本件船舶を前記長坂汽船に売り渡す旨の契約(前記一月一六日の契約で定めた引渡期日及び代金を若干変更したもの)を締結し、同会社に売却したこと、原告は上島造船所と右裸傭船契約を締結する際、当時本件船舶を実際に使用していた者を知っておらず、傭船先は上島造船所が探すだろうと漠然と考えていたことが認められる。
証人万徳正一は、曽我から本件船舶の引渡しが遅れた使用損害金として一〇〇万円を受領したと証言するが、前掲乙第五号証に照らして使用できない。また、前掲乙第七号証によれば、甲第七号証の協定書は本訴提起後の平成五年七月ころ作成されたことが認められるうえ、曽我が一〇〇万円を支払った旨の記載はなく、右甲第七号証は右証言を何ら補強するものではない。
また、原告は、本件船舶は、本村と曽我との間の売買契約締結と同時に占有改定によって曽我に引き渡され、同日に二回に二回の指図による占有移転により原告に引き渡されたと主張するが、本村と曽我はこれを明確に否定し(乙第一、第五号証)、証人万徳正一もかかる指図をしたことを証言しておらず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
右認定事実によれば、原告は平成元年二月一日上島造船所との間で本件船舶の裸傭船契約を締結したが、右の日以前から本村が本件船舶を自己の事業に使用し、同年三月二、三日ころまで買主の曽我に本件の引渡しをしていなかったから、原告がそれ以前に本件船舶を上島造船所に裸傭船契約に基づき引き渡すことは不可能であり、仮に原告が上島造船所から傭船料名目で金銭の支払を受けたとしても、原告と上島造船所との間に右傭船契約に基づく傭船の事実がないので、原告が本件事業年度において本件船舶を原告の事業の用に供したということはできない。
三 したがって、原告は、本件事業年度において、本件船舶に付着する本件建造引当権九四五〇万円の減価償却費を損金計上することはできない。
そうすると、本件更正処分及び本件賦課決定処分には原告主張の違法はなく、いずれも適法であるということができる。
四 よって、原告の本訴請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉岡浩 裁判官 岩坪朗彦 裁判官 山野幸雄)